【SPECIAL INTERVIEW】
実写映画『ルックバック』の圧倒的な世界観を創り上げた、録音技師・冨田和彦氏の緻密な録音術とDPAマイク
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実写映画『ルックバック』
9/11(金)公開
©藤本タツキ/集英社 ©2026 K2Pictures・集英社
2026年9月11日(金)に劇場公開を迎えた実写映画『ルックバック』。
劇中で描かれる人物たちの繊細な感情や息遣い、そして作品全体を包み込むリアルな季節の空気感は、どのようにして捉えられたのでしょうか。
本作の現場録音・音響制作を手掛けたのは、録音技師の冨田和彦氏です。冨田氏には、昨年(2025年)6月にヒビノインターサウンド(株)主催のDPAトークイベント「見えない音が映画を支える、映画録音の舞台裏」にもご登壇いただき、映画録音の最前線における知見やDPAマイクの魅力について貴重なお話を伺いました。
今回は、映画『ルックバック』の公開にあわせ、監督の演出意図に応えた緻密な音作りのアプローチと、その現場を多角的に支えたDPA Microphonesの実践的な役割について、改めて詳しくお話を伺いました。

実写映画『ルックバック』 9/11(金)公開
©藤本タツキ/集英社
©2026 K2Pictures・集英社
映画『ルックバック』
原作: 藤本タツキ『ルックバック』(集英社ジャンプコミックス刊)
監督・脚本: 是枝裕和
出演: 出口夏希、蒔田彩珠
公開日: 2026年9月11日(金)全国公開
配給・製作: K2 Pictures
公式サイト
【ストーリー】
ひたむきに「描く」ことへ情熱を傾けたふたりの少女の物語。自惚れと葛藤のなかで4コマ漫画を描き続ける藤野(出口夏希さん)と、不登校ながら圧倒的な画力を持つ京本(蒔田彩珠さん)。漫画制作を通して出会い、成長していく二人の絆と、創作へ情熱を注ぐ姿を切なくも瑞々しく描いた青春ストーリーです。言葉を超えて心を通わせる日常と、溢れ出る衝動を静かな空気感とともに丁寧に映し出します。
演出意図と音がリンクする――「描く音の成長」と「絵が呼ぶ音」
撮影に入る前、監督から提示された2つの明確なコンセプトがありました。 一つは「二人の少女の成長に合わせて、ペンの音も成長する」こと。主人公たちが描く道具は、鉛筆、シャーペン、Gペン、そして液晶タブレットへと変化していきます。描く音そのものが、少女たちの成長ストーリーと密接にリンクしているのです。
もう一つは「京本の描く絵は音を連れてくる」ということ。京本の圧倒的な画力に対して「見た人に音が聞こえてくる」ような臨場感を音響でどう表現するか。映像と音が一体となって感情を揺さぶる、映画ならではの表現に挑みました。
セットの「固有の響き」を空間音響へ落とし込む――実写ならではのIR(インパルス・レスポンス)生成
本作のAtmos Mixにおいて特筆すべきは、セット撮影における「部屋固有の鳴り・響き」の徹底的なデータ化です。主人公二人(藤野・京本)の部屋のセットにて、モニタースピーカーからスイープ信号を再生。マイク4本(DPA 4011C)によるQUAD録音を、マイク位置を変えて2テイク(計8ch分)実施しました。
収音した素材からリバーブ・プラグイン「Altiverb 8 XL」を使用して7.0.2chのIR(インパルス・レスポンス)を自作生成(※最大9.0.6chまで自作・対応可能)。これをDolby Atmos Mix内で活用することで、アフレコや別録りしたセリフをセットの空間に自然に馴染ませたり、フォーリー(作音)を「あたかも現場の部屋の中で鳴っているかのような質感」へリアルに再現することが可能になりました。
にかほ市の空気をそのまま閉じ込める――季節を追う環境音ロケ
漫画を描く背中のカットが積み重なる点描シーンでは、ペンの音だけでなく「季節の移り変わり」をリアルに表現することが不可欠でした。そこでAtmos Cinema Mixでの立体的な音響空間構築を見据え、舞台のモデルとなった秋田県にかほ市などで精力的な環境音(アンビエント)ロケを敢行しました。
- 冬(2月)
- 白鳥の鳴き声、羽越本線列車、風に揺れる杉林、TDK(電子部品メーカー)駐車場での早朝の除雪車作業音、雪やあられ、雷、主要なセットやロケの建具や階段の足音
- 春(5月)
- にかほ市象潟(きさかた)地区の春のお祭り(祭囃子)、田んぼの春
- 夏(7月)
- 廃校が決定していたにかほ市立院内小学校での音ロケ(セミ、ひぐらし、小学校の授業や休み時間)
- 秋(11月)
- 白鳥の鳴き声、防災放送
田んぼの水路、白鳥の羽ばたき、風に揺れる杉林、羽越本線の列車音まで、実写映像に説得力を与える「にかほの空気感そのもの」をDPAマイクで徹底的に録音していきました。
実写現場のダイナミックレンジと臨場感を捉えるDPAマイク
これらのロケーションや撮影現場でメインとして活躍したのがDPAのマイクです。DPAは「現場の空気感を一切の味付けなく、透明感をもって忠実に再現できる」点が最大の採用理由です。
撮影現場でのセリフ・同録収音
- 撮影現場では、屋外はショットガンマイクの4017C、室内は単一指向性ペンシルマイクの4011Cをメインに使用。大きなセリフが少ない作品だからこそ、部屋で漫画を描く微小な音まで忠実に捉えることができました。田んぼでの別れのシーンなど、役者の感情が高ぶり声量のダイナミックレンジが非常に大きい場面でも、ピンマイク(CORE 6061 / 4061 CORE+)・ショットガンマイクともにオーバーロードすることなく追従。また、ピンマイクはケーブルが頑丈で柔らかく癖がつきにくく、水や湿気にも強いため、現場で衣裳部や役者からも非常に好評でした。
芝居を制限させないマルチマイキング
- 放課後のグラウンドや廊下のシーンでは、役者の自然な演技や動きを制限させないよう、4011C×4、4017C×2、ショットガンマイクの2017×2、マイクロショットガンマイクCORE 4097Micro×2といったマイクをフル稼働させました。小型で機動力のある4097はワイヤレス送信機と組み合わせて、短時間で設置しました。田んぼの別れ撮影では、役者の芝居と同時に、遠くで鳴くひぐらしや水路の音を2017のステレオペアで収録してポスプロMixで効果的に配置しています。
田んぼでのロケーション撮影風景。広大な屋外現場では5mブームの先端に「4017C」をセッティングして収音。コンパクトなプリアンプ(MMP-C)との組み合わせによる軽量さとコンパクトさは、長尺ブームでの取り回しにおいて大きな強みとなる。
微小な「ペンの音」を捉えるフォーリーの技術
フォーリー(音響効果)においては、無指向性の4006をメインに据え、音質はもちろん部屋の響きやエアー感を捉えました。 特に緻密さを極めたのが、小さく繊細な「鉛筆やペンの音」の収音です。ここでは、プロの漫画家に、映像に合わせて実際にペンを走らせてもらいました。無指向性で広大な空気感を捉得るペンシルマイク4006Aと、超指向性で狙った音をシャープに捉える4017Cという、あえて対極にある2本のマイクを組み合わせてアプローチしました。
DPAのマイクは過度な着色をせず、目的ごとに適切なモデルを選択することで、カメラのフレームを邪魔することなく狙い通りの音を捉え、音響を立体的に構築することができました。
音づくりに携わるクリエイター・エンジニアへ
いろいろなマイクを実際に触ったり試聴したりして、DPAマイクの特徴や強みを理解した上で、現場ごとに「適材適所」で使ってみてください。また、現在はノートパソコン1台あればAtmos Mixができる時代です。ぜひイマーシブオーディオのMIX体験やデモセッションの試聴にも積極的に挑戦してみてください。

冨田 和彦(Kazuhiko Tomita)録音技師
1979年生まれ、東京都出身。日本大学芸術学部映画学科卒。録音助手時代から是枝裕和監督作品に多数参加し、現場録音とPostMixを担当。参加作は『三度目の殺人』『万引き家族』『怪物』『阿修羅のごとく』など。日本アカデミー賞優秀録音賞を3度受賞。日本映画テレビ録音協会会員、日本大学芸術学部映画学科非常勤講師。Audio Ease社「Altiverb」の公式IR録音など、ホールやスタジオの響きを残す活動にも取り組む。
製品リスト
| カテゴリ | ブランド名 | 製品名 |
|---|---|---|
| ショットガン・マイクロホン | DPA Microphones | 4017C |
| ショットガン・マイクロホン | DPA Microphones | 2017 |
| マイクロ・ショットガン・マイクロホン | DPA Microphones | 4097 CORE+(Micro) |
| 単一指向性マイクロホン | DPA Microphones | 4011C |
| 無指向性マイクロホン | DPA Microphones | 4006A |
| 無指向性ミニチュア・マイクロホン | DPA Microphones | CORE 6061 |
| 無指向性ミニチュア・マイクロホン | DPA Microphones | 4061 CORE+ |









