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【SPECIAL INTERVIEW】後藤正文 × 古賀健一
生の響きと体験を次世代へ――DPAマイクとアナログ機材が繋ぐ、レコーディング文化の継承

  • 【SPECIAL INTERVIEW】後藤正文 × 古賀健一
生の響きと体験を次世代へ――DPAマイクとアナログ機材が繋ぐ、レコーディング文化の継承

    左:後藤正文氏 右:古賀健一氏

ASIAN KUNG-FU GENERATIONのフロントマンであり、自らスタジオも主宰する後藤正文氏。そして数々の名盤を手がけてきたエンジニアの古賀健一氏。二人が静岡県藤枝市に立ち上げた新スタジオにて、DPA Microphonesの真価と、スタジオ設立に込めた熱い想いを伺いました。

インディーズ支援と理想の響き――藤枝スタジオのコンセプト

ー静岡県藤枝市にスタジオを立ち上げた経緯を教えてください。

後藤: 基本的には、インディーズのアーティストを支援するためのスタジオです。 もともと10年ほど前から古賀君と話していたんですが、都内でドラムを録音しようとすると、どうしても費用がかなりかさんでしまうんですよね。一方でレーベルの予算は下がってきていて、ドラム録音にかけられる時間がどんどん減っている。「これは作品作りとして大きな問題だよね」という話をずっとしていました。 そういう状況の中で、「しっかり時間をかけて作るなら地方にしかチャンスはないな」と思っていて。いつかどこかで作りたいと模索していたタイミングで、ご縁があってここ藤枝で支援者の方が見つかり、この建物を借りることができたんです。 

  • 一見するとただの「蔵」。外観からは中に本格的な音楽スタジオがあるとは思えない佇まい

  • スタジオ内部の様子。天高が高く、奥行きのある構造

  • スタジオ内部の壁面には、蔵で使われていた床材などが再利用されている(Photo by 八木咲)

ーここで収録された楽曲を聴きましたが、ドラムの音がすごくいいですよね。どういったこだわりを持っていらっしゃいますか?

後藤: 場が鳴っているといいなと思っています。その場所固有の音があるので。都内の天井高が低い狭いスタジオだと、近隣への防音のために音を殺す(デッドにする)しかなくて、後からプラグインで響きを足す形になりがちです。 ルームアコースティック(部屋の響き)ってすごく大事なんです。MIXで必要なことなので、録るときにも大事にしたいですね。

古賀: 天井高を4〜5m確保しつつ、材質と角度を意識しています。

後藤: 壁を斜めにしてすぼむように下りてきている構造がすごくよかったと思います。反射を一回上に逃すような効果が得られているのか、シンバルの高域も嫌な痛さが一切ないんです。

ただ、正直「響き」って建ててみないと分からない部分なので…、結果的に満足できてよかったです(笑)。

古賀: 実際に、スネアの太い帯域(140〜200Hz付近)がしっかり残りますね。

―だいぶ予約が埋まっているとお聞きしました。地元の方が多いですか?

後藤: それが意外とそうでもないです。東京からはもちろん、名古屋や大阪からも多いですね。今バンドのメンバーが各地に分散して住んでいるパターンもあるらしく、中間地点として利用されていることもあるようです。東京からも1時間くらいですしね。この価格帯でこの音が録れる場所は日本一じゃないでしょうか。 

原音と空間をありのままに捉えるDPAマイクの真価

自分のアコギ音を一番素直に残せる「DPA 4015」

4015C
一般的なカーディオイド型よりやや広いワイドカーディオイド型の指向特性。横からの音も歪みなく均一に拾えるため、広い音源や部屋の自然な響きをそのまま捉えることができます。
ー後藤さんはアコギの収録にDPA 4015を愛用されているそうですね。

後藤: はい。ソロのアコースティックギターの録音で「4015C(ワイドカーディオイド)」をステレオで立てて録ることが多いです。すっきりとした音質に感じます。色々なマイクを試してきましたけど、自分のアコギを録るならDPAが一番しっくりきますね。  

―DPAのどんな点に魅力を感じていますか?

後藤: 変な色付けがない「無色透明さ」ですね。アコギを録音して一番がっかりするのって、高域がシャリシャリして耳が痛くなったり、必要な甘い帯域が抜け落ちたりすることなんです。とにかく目の前で鳴っているありのままの弦の音や胴鳴りを素直に拾ってほしいんですが、DPAは楽器本来のニュアンスをそのまま残せる信頼感があります。だからこそ、そういった音が求められる現場で使われているんだろうなと思います。 

空間をキャプチャし、イマーシブの時代に真価を発揮する「DPA 4006A」

  • 左:4006A 右:ST4006A

4006A
原音にどこまでも忠実で、空間の空気感までクリアに捉える無指向性マイクロホン。
ST4006A
周波数特性と感度の差が±0.5dB以内、かつ位相差が5度以内の2本の4006Aを組み合わせたステレオペアモデル。
―今回新しく導入いただいた4006についてはどのような印象をお持ちですか?

古賀: 実は僕、最初は4006Aの良さがピンと来ていなかったんですよ(笑)。あまりにも音が自然過ぎて。当時はバンドの収録が多く、色を付けて録るのが仕事だったのでなおさらです。でも、イマーシブオーディオ(立体音響)や、実際の空間の響きをデータ化する「IR(インパルスレスポンス)」を取り始めるようになってから、「4006A」の真価に気づきました。「空間そのものをどうキャプチャするか」となった時に、脚色のないDPAの性能が絶対的に必要になるんですよね。「あ、このマイクでしか録れない空間の純正な響きがあるんだ」と気づいてから、概念が変わりました。それからは、もう手放せなくなりましたね。 

―実際にどのように活用される予定ですか?

後藤: ライフワークとして、歴史的建築物など取り壊されてしまう建物の音響をデジタル保存するIR収録活動をしているのですが、そこでは4006Aが絶対必要になります。先日は大阪の「味園ユニバース」の収録をしましたが、とても喜んでもらえました。正式に残せば、世界中の人がその空間を使えるようになりますし、映画などでも活用できます。この活動は継続していきたいと思っています。

古賀: 僕が4006Aを3ペア持っていて、今回後藤さんが1ペア導入してくれたので、これで計4ペア使えるようになりました。かなり効率的に収録が進められると思います。

後藤: 藤枝で4006Aをどう使用するかはこれからみんなで開発したいと思っています。意外な場所で思いがけず面白い音が録れることもあるでしょうし、そんな発見がスタジオの歴史になっていくんだと思います。 

―お二人は録音現場において、何を最も大切にされていますか?

古賀: 僕自身、あえて定番マイクを使わないスタイルなんですけど、何より重要なのはマイクの性能以上に「演奏者の技術」と「楽器のチューニング」なんですよね。 

後藤:「いい曲を書いて、いい演奏をする」のが最優先です。まずは「演奏ありき」で、そこにどういうマイクを立てるかという順番だと思うんです。演奏やチューニングでいい音が出てないとダメ。だから現場でも「スネアのマイクを変えるのか、チューナーさんがスネアを変える方がいいのか」を話し合ってアプローチを決めていきます。 

古賀: そこを対等に話し合って進められるチームワークが大事ですよね。

後藤: その上で、アコースティックな楽器とかであんまり脚色したくない現場ってあるじゃないですか。そういう時にDPAはすごく性能がいいし、まっすぐ通ってくれるのがいいんですよね。 

アナログ機材を通じた「文化の継承」

―スタジオにはアナログコンソールが導入されているなど、各所にアナログのこだわりが伝わってきます。

コントロールルームの中央にはアナログコンソールを配置。左右に置かれた木製ラックには、能登や熊本の被災地から回収された木材(震災がれき)が再利用されている。

後藤: プラグインに慣れた今の世代は「本物を触ったことがない」人が多いんです。実機を触ることで、コンプの掛かり方や音の仕組みを肌で学べますから。僕たちがどっぷり浸かってきたレコーディング文化を、次の世代へ手渡す場所にしたかったんです。

古賀: 技術伝承の場であり、若い才能を育てる場でもありますね。

後藤: アナログ機材は壊れたりする面倒くささもありますが、音楽って「一瞬の偶然をどう収めるか」だと思うんです。実機特有の個体差や機材の「ブレ」を愛せるかが大事で、これは「今日は雨だな」と受け入れる自然との向き合い方に似ています。ままならなさも含めて。都内の狭い部屋で響きを殺し、後からプラグインで響きを「捏造」する手法はヘルシーじゃない。その場の空気感や木の響きと直接向き合いたいんです。


今後、実機に触れたことがない、自分で録音をしたことがない人が増えていく中で、自分たちが経験してきたレコーディング文化や技術をしっかり伝承していきたいですね。 


後藤 正文(Masafumi Gotoh)
1976年生まれ、静岡県出身。ロックバンド「ASIAN KUNG-FU GENERATION」のボーカル&ギターを担当し、楽曲の作詞・作曲を手掛ける。ソロアーティスト「Gotch」としての活動のほか、執筆業やWebメディアの運営、インディーズアーティストを支援する助成金制度「APPLE VINEGAR -Music Award-」の設立など、多角的に活動。近年はスタジオの設立や歴史的建築物の音響(IRデータ)の保存など、音楽文化を次世代へ手渡す取り組みにも力を注いでいる。
➡ Gotch
古賀 健一(Kenichi Koga)
レコーディングエンジニア。Xylomania Studio LLC代表。福岡県出身。
青葉台スタジオに入社後、2014年フリーランスとして独立しXylomania Studioを設立。2020年DolbyAtmos対応スタジオに改修。これまでにASIAN KUNG-FU GENERATION、ichikoro、Official髭男dism、D.W.ニコルズ、チャットモンチーのバンドサウンドからクラシック、映画音楽などの幅広いジャンルに関わる。また、商業スタジオやミュージシャンのプライベート・スタジオの音響、機材コーディネイトアドバイスも手掛けている。
➡ X

製品リスト

カテゴリブランド製品
無指向性マイクロホンDPA Microphones4006A
無指向性マイクロホン(ステレオペア)DPA MicrophonesST4006A
ワイドカーディオイド・マイクロホンDPA Microphones4015C

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本記事で紹介したインタビューの模様は、YouTubeの動画でもご覧いただけます。

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